ハッブル-ルメートルの法則
よみ方
はっぶる-るめーとるのほうそく
英 語
Hubble-Lemaitre law
説 明
宇宙が膨張していることを述べた法則。「宇宙のどの方向を見ても、遠方の銀河ほど速い速度で銀河系(天の川銀河)から遠ざかり、その遠ざかる速度(後退速度)は銀河までの距離に比例する」と要約される。銀河の後退速度 を $v$ [km s-1]、その銀河までの距離を $r$ [Mpc]とすると
$$v=H_0\thinspace{r}$$
と表される。後退速度と距離の間の比例定数 $H_0$ はハッブル定数と呼ばれる。ハッブル-ルメートルの法則は一見、宇宙が天の川銀河を中心にして膨張しているかのように思われるが、実際には、宇宙が一様かつ等方的に膨張していることを示している。
遠方銀河の後退速度(スペクトルに見られる吸収線のドップラー偏移から計算される)が距離に比例することを初めて公表したのは、アメリカの天文学者ハッブル(E. Hubble)が1929年に発表した論文であると考えられていたので、この法則は長年『ハッブルの法測』と呼ばれてきた。一方、ベルギーの宇宙物理学者でカトリックの神父でもあるルメートルは、1927年に発表した論文で、アインシュタインの一般相対性理論の方程式を解いて、フリードマン宇宙に相当する膨張解をフリードマンとは独立に導き出した(ルメートル解)。さらにその論文で、当時入手できたデータに基づいて、銀河の後退速度と距離の間に比例関係があることを示し、ハッブル定数まで求めていた。ところが彼の論文はフランス語で書かれ、発表された雑誌がベルギーの学術雑誌であったため、この事実は世界の研究者にほとんど知られていなかった。イギリスの高名な天文学者のエディントン(ケンブリッジ大学でルメートルの師でもあった)の紹介で、この論文は英訳されて1931年に英国王立天文学会の学術誌に公表されて広く知られることとなった。しかし英訳版では観測データを扱ってハッブル定数を求めた一節と脚注が削除されていたことが2011年に研究者の間で大きな話題となり、誰が英訳したのか、また削除された原因は何かが調べられた。その結果、英訳はルメートル自身が行い、削除部分については、「すでにハッブルがハッブル定数を求めた論文を1929年に出版しているので、ほとんど同じデータを使った自分の結果を今再度掲載しなくてよい」と考えて彼自身が削除したことが明らかになった。
天文学の歴史の中で画期的な発見であり現代宇宙論の基礎である宇宙膨張を最初に発見したルメートルの貢献を讃え、将来の科学的な講演・論説・論文などにおいて歴史的事実が正しく示されることを願って、2018年8月20-31日にオーストリアのウィーンで開催された第30回国際天文学連合(International Astronomical Union: IAU)総会で、IAU執行委員会は、「宇宙の膨張を表す法則は今後『ハッブル-ルメートルの法則』と呼ぶことを推奨する」という決議を提案した。この決議は2018年10月に会員の投票で成立した。ただし、ハッブルの名前を冠する学術用語はたくさんあるが、『ハッブルの法則』以外はこの決議の影響を受けることはない。
この決議によって、一般社会にも広く浸透している『ハッブルの法則』の推奨名称を変えることになるので、社会特に学校教育現場で混乱が起きないよう適切な対応を取ることが必要である。日本学術会議は2018年12月26日に、「ハッブルの法則の改名を推奨するIAU決議への対応」と題して以下の内容を骨子とする提言を発出した。
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-24-t273-1.pdf(日本学術会議提言:以下は抜粋)
この問題は、「これまで使われてきた『ハッブルの法則』という言葉は間違いで、今後は『ハッブル-ルメートルの法則』と呼ばなければならない」という規則改定のような問題ではないことを十分理解することが対応の大前提となる。それを踏まえて各分野で以下の対応が取られることを希望する。
(1) 学校教育で用いられる教科書における記述変更は直近の改訂時に対応する。それまでは教科書に対する特別の補充資料は作らず、現場での解説で対応する。
(2) 各種試験で、宇宙膨張の法則の名称そのものを問うて、『ハッブルの法則』か『ハッブル-ルメートルの法則』かによって解答の正否が分かれるような問題は出さない。
(3) 学校教育現場に限らずしばらくの期間は、『ハッブルの法則』と『ハッブル-ルメートルの法則』のどちらが使われていても問題とはしない。
(4) 一般書やマスコミ等の記述、講演会などで用いる名称は担当者次第であるが、IAU決議の趣旨を踏まえて『ハッブル-ルメートルの法則』を用いることが望ましい。
2024年01月06日更新
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