プラネタリーバウンダリー
よみ方
ぷらねたりーばうんだりー
英 語
planetary boundary
説 明
安定した環境を維持する地球で、人類が安全に活動できる範囲を科学的知見に基づいて定量化したもの。環境の変化に対して地球システムが持つ自然の回復力(レジリエンス)の限界にほぼ対応する。この限界内で人間活動が行われればそれは安全かつ持続的である。人間活動の影響がこの限界を超えると、地球は自然の回復力で元の状態には戻れず、不可逆的で壊滅的な変化が起きるとされている。英語のカタカナ読みが広く使われているが、日本語では「地球の限界」あるいは「惑星限界」が使われることもある。
プラネタリー・バウンダリーは、ストックホルム・レジリエンスセンターのロックストローム(Johan Rockström 1965 - ;現在はポツダム気候影響研究所所長)ら国際的に著名な28人の研究者による2009年の論文で提唱された概念である。論文はEcology & Society誌に掲載されたが要約はネイチャー(Nature)誌にも掲載され、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の策定にも大きな影響を与えた。
ロックストロームらは2009年の論文で、生命維持に必要な地球環境を評価する9つのシステムを定義し、当時の科学的知見に基づいてそのうちの7システムについては以下のように限界値の定量化を行った。
(1) 気候変動
「大気中の二酸化炭素濃度が350 ppm以下」と「産業革命以来(1750年以降)の放射強制力(放射エネルギー収支)増加量が +1 W m-2以下」のどちらかあるいは両方。
(2) 海洋酸性化
地球全体の表層海水中のアラレ石(CaCO3)の飽和状態が産業革命以前の80%以上(酸性化が進むと値が低下する)。
(3) 成層圏のオゾン
全オゾン量の減少が産業革命以前の値(290ドブソン単位)の5%以内。
(4) 生物地球化学的循環
窒素(N)サイクルでは、工業と農業のための大気中の窒素固定を年間35(百万トン単位)以下。リン(P)サイクルでは、人工的な海洋への流入量が自然の風化によるレベルの10倍以下。
(5) 世界全体での淡水利用
年間4000 km3以下。
(6) 土地利用の変化
氷に覆われていない地表面積の農耕地への変換は15%以下。
(7) 生物多様性の損失速度
100万種あたりの年間絶滅種が10種以下。
残る以下の2システムについては定量的な限界値が求められなかった。
(8) 化学物質による汚染
(9) 大気中のエアロゾル
この論文は大きな反響を呼び、以後多くの研究が行われるようになった。プラネタリー・バウンダリーの概念と地球環境の現状を表したものが図1である。これ以外にも異なる時点のデータに基づくさまざまなバリエーションが存在する。ストックホルムのレジリエンス・センターが作成した2009年、2015年、2023年の図を並べたものが経年変化が見やすいのでそれを図2に示す。2009年では7つのシステムが評価され、3つのシステムで限界値がすでに越えられたと判定されたが、2015年にはそれが1つ増えて4つのシステムで限界値が越えられ、9つのシステム全てが評価された2023年には6つのシステムで限界値が越えられた。
過去100万年の間に地球では氷期と間氷期が約10万年周期で繰り返されてきた(ミランコビッチサイクルを参照)。現在は直近の氷期が終わった後、今から約1万2000年昔に始まった間氷期にある。この期間は暖かく比較的安定した気候で、地質時代としては完新世(Holocene)と呼ばれている(図3)。人類は完新世の中で繁栄を築いてきたが、地球温暖化に見られるようにその活動が地球環境に大きな影響を与えるまでになってきた。プラネタリー・バウンダリーの多くのシステムで限界値が越えられて不安定な領域から高リスク領域に進むと、地球環境に不可逆的な変化が短期間に起き、完新世の終わりにつながることになるかもしれない。
参考サイト
ストックホルム・レジリエンスセンター
https://www.stockholmresilience.org/
ポツダム気候影響研究所
https://www.pik-potsdam.de/en
環境省解説資料
https://www.env.go.jp/policy/hakusyo/h30/pdf/1_1.pdf
2025年06月03日更新
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