天文学辞典 | 天文用語をわかりやすく解説

反転分布

 

よみ方

はんてんぶんぷ

英 語

population inversion

説 明

多数の同種粒子(分子や原子や電子)からなる物質で、2つのエネルギー準位間において高いエネルギー準位にある粒子数の方が低い準位にある粒子数よりも多い場合をいう。逆転分布ということもある。この準位間で電磁波の放射吸収を伴う遷移可能な場合が特に重要である。物質が熱平衡に近い熱力学状態にある場合、量子状態ごとの粒子数は低エネルギーに対応する方が多い(図(a)参照)。特に、熱平衡状態ならば、この粒子数の比はボツルマン分布になり、ボルツマン因子で定義される1つの温度(励起温度)で表現できる。しかし、特殊な状況下では、粒子数の比が逆転し、反転分布が実現する場合がある(図(b)参照)。この状態で、ボルツマン分布に基づく温度を形式的に適用すると T_\mathrm{ex}=-\frac{1}{k}\Delta E\ \ln \frac{n_2}{n_1} で定義される励起温度 T_\mathrm{ex} は負となる。このため、反転分布は負温度分布とも呼ばれる。反転分布だと、吸収よりも誘導放射の効果が顕著となるため、メーザーやレーザーが発生する。
反転分布を定常的に発生させるには、自発放射が起こる率よりも高い率で低エネルギー準位から高エネルギー準位に粒子が供給される必要がある。そのために、いったん、さらに高い準位に衝突や電磁波吸収などによって粒子を励起させ、それが自発放射などによって該当する遷移の高エネルギー準位に豊富に供給される過程が必要となる。この過程をポンピングという。

2018年09月06日更新

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*2つのエネルギー準位の粒子の数。図中でnは粒子数、gは統計的重率。下付添え字が2つのエネルギー準位ごとの値であることを意味する。(a)熱平衡状態に近い場合には高いエネルギー準位に対応する量子状態にある粒子の数は少ない。(b)しかし、特殊な状況下ではこれと逆の分布になる場合があり、これを反転分布という。
水野 亮「電波の放射機構」、シリーズ現代の天文学第16巻、中井・坪井・福井編『宇宙の観測II』2.2節 図2.28(日本評論社)