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脱結合

 

よみ方

だつけつごう

英 語

decoupling

説 明

ある粒子が他の粒子との熱平衡の状態から外れること。初期宇宙の高温高密度時には、さまざまな粒子は頻繁に相互作用することによりエネルギーを交換し合い熱平衡状態になっている。膨張に伴って宇宙の温度が下がると粒子の密度が下がり、ある粒子は他の粒子とほとんど相互作用しなくなり独立に運動するようになって、他の粒子との熱平衡状態から外れる。これがその粒子の脱結合である。脱結合しているかどうかは、その粒子が他の粒子と相互作用する平均時間とその時点での宇宙年齢との兼ね合いできまる。平均時間が宇宙年齢より短かければ脱結合しておらず、長ければ脱結合しているとおおよそ判定できる。どのような粒子がいつ脱結合したかは、宇宙の進化を考える上で極めて重要である。

宇宙の温度が絶対温度で約200億度K(ビッグバンから1秒程度)の頃に、弱い相互作用(弱い力)の反応率(反応平均時間の逆数)がハッブルパラメータ(その逆数が宇宙年齢の目安)りも小さくなりニュートリノが脱結合した。その後の宇宙進化の過程で起きる脱結合で最も広く知られているのは、ビッグバンから約38万年後に起きた光子と物質(バリオン;実質上は電子)の脱結合である。

それ以前の宇宙は完全電離したプラズマ状態にあり、光子は自由電子トムソン散乱によって相互作用して熱平衡状態にあり、まっすぐ飛ぶことができなかった。温度の低下とともに宇宙の主要元素である水素の原子核(陽子)が電子を束縛して中性水素になると、光子はまっすぐ飛べるようになる。

電子と水素原子の電離平衡を単純に考えると、それが起こるのは水素原子の電離エネルギーである13.6 eVに対応する温度15.8万度Kということになるが、実際にそれが起こるのは3000度Kの頃である。これは、宇宙のバリオン-光子比が nB/nγ ~ 5×10-10と、1に比べて圧倒的に小さいためである(再結合期を参照)。光子の数がとても多いので、宇宙の温度が電離エネルギーに対応する温度より低くても、高いエネルギーをもつ光子が存在しその数が無視できないからである。

このように、宇宙がプラズマ状態から中性水素原子で満たされるようになることを、宇宙の晴れ上がり、あるいは水素原子と電子の再結合(ただし、結合が起こるのは宇宙の歴史上このときが初めてである)、ないしは光子と物質の脱結合という。最終散乱面も参照。

2024年01月29日更新

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