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バイオシグナチャー

 

よみ方

ばいおしぐなちゃー

英 語

biosignature

説 明

日本語では生命存在指標ともいう。英語のカタカナ表記に関してはバイオシグネチャー、バイオシグニチャーなども使われる。惑星を外部から観測したときに、生命が存在することの証拠と考えられる指標となるデータを指す。惑星大気中に酸素、オゾン、メタンなどの存在を示す証拠が一般的である。植物の葉は、クロロフィル(葉緑素)による波長520 nmおよび680 nm付近の2か所の吸収のために緑色に見える。しかし、実は地上の植物の葉は、750 nm以上の長波長で急激に反射率が立ち上がるという性質を持つことが知られており、レッドエッジと呼ばれている。これは地球のリモートセンシングではすでに利用されているが、仮に太陽系外惑星の表面が植物で覆われている場合にはこのレッドエッジが同定できるかもしれない。そのためこの反射特性は太陽系外惑星探査で重要なバイオシグナチャーとなる可能性が指摘されている。これらの天文学的リモートセンシングとは別に、太陽系内で惑星探査機が惑星現地で行う生命存在確認実験で使用が検討されている蛍光タンパクなどを生命存在指標と呼ぶこともある。
かつてはバイオマーカーと呼ばれたこともあるが、バイオマーカーは医薬分野などにおいて、タンパク質などの生体由来の物質で、生体内の生物学的変化を定量的に把握するための指標(マーカー)となるものを指す用語として広く使われている。医薬分野での用語と区別するために、今ではバイオマーカーではなく、バイオシグナチャーと呼ぶことが推奨されている。

2022年10月24日更新

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    * 宇宙から観測した地球型惑星の赤外スペクトル。縦軸は赤外線の強さを表す。生命の存在する地球のスペクトルには水蒸気(H2O)、オゾン(O3)、メタン(CH4)による吸収が見られる。
    海部宣男「太陽系外惑星」、シリーズ現代の天文学第1巻、岡村・池内・海部・佐藤・永原編『人類の住む宇宙』第2版 5章 図5.15 (日本評論社)
    原図出典 Woolf and Angel 1998, A&Ap, 36, 507
    落葉樹の葉の反射スペクトル。波長0.55 μm(550 nm)付近の両側にクロロフィル(葉緑素)の吸収バンドが2つあるために、それに挟まれた波長帯で反射率が高くなる。そのため可視光では植物の葉は緑色に見える。しかし実はより長波長側では反射率が急激に高くなり50%にも達する。これはレッドエッジと呼ばれ、地球上の植物に共通した性質である。したがってもし近赤外線まで含めれば、植物は真っ赤であるというべきかもしれない。
    須藤靖 『ものの大きさ 第2版』東京大学出版会、2021年、図13.3を許可を得て転載。原図は
    Ford, E.B., Seager, S, Turner, E.L. 2003, 'A Model of the Temporal Variability of Optical Light from Extrasolar Terrestrial Planets', ASP Conference Series, Vol. 294, 639