天文学辞典 | 天文、宇宙、天体に関する用語を3000語以上収録。専門家がわかりやすく解説します。

天文学

 

よみ方

てんもんがく

英 語

astronomy

説 明

宇宙とその中にある全てのものの起源と進化とその性質、およびそこで起きるさまざまな現象を知ることを目的とする学問である。「天文学」の他に「天体物理学」、「宇宙物理学」、「宇宙科学」などそれぞれの側面を反映した名前も用いられるが、天文学とそれらの違いは明確に定義されてはいない。
天文学は人類の歴史で最古の学問の一つであるが、20世紀後半とくに21世紀に入ってからの天文学の発展はめざましく、他の学問分野との新たな関わりも生まれている。天文学の対象は、その現場に行って測定することができず、また条件をいろいろに制御して実験をすることができないものである。惑星探査機等の登場によって、太陽系内の天体は、現場やその近くで観測ができるようになって、これらの多くは天文学というより惑星科学の主要な対象となった。また近年続々と発見されている、太陽以外の恒星の周りを回る太陽系外惑星は、天文学の新たな対象であるが、惑星科学、生物学、化学など広い分野を含む宇宙生物学の対象ともなっている。
天文学では、対象から地球に届くさまざまな情報を収集し分析する受動的な研究方法が主体となる。宇宙から届く情報を得るための最も伝統的な観測手段は電磁波で、中でも可視光は古代から観測の主役であった。20世紀までは可視光以外の電磁波による観測では、空間分解能や波長分解能など分解能が十分でなかったので、電磁波の全ての波長で可視光に匹敵ないしは凌駕する高品質の観測を実現することを目指した。それは「多波長天文学(multi-wavelength astronomy)という標語で天文学の目標となっていた。現在では、電波赤外線紫外線X線ガンマ線という電磁波のほぼ全ての波長にわたって高い空間分解能で宇宙を観測することができる。
1912年に宇宙線が発見され、それは宇宙から届く高エネルギー粒子や電磁波であることがわかった。さらに、1997年には大マゼラン雲で起きた超新星SN1987Aからのニュートリノが日本のカミオカンデにより検出された。これは太陽以外の天体から来るニュートリノの初めての観測であり、ニュートリノ天文学への道が拓かれた。そして2017年には、アインシュタイン一般相対性理論が100年前に予測した重力波がついに検出された。これにより、電磁波、宇宙線粒子、ニュートリノ、重力波などさまざまな観測手段(情報を伝えるメッセンジャー)を総合して研究を進める「マルチメッセンジャー天文学」が天文学の新しい流れとなった。
天体から届く情報の分析にはコンピュータが欠かせない。天文学では実験ができないので、観測結果をコンピュータシミュレーション(模擬実験)の予測と比較することが重要な研究手段となる。このため、コンピュータは「理論の望遠鏡」と呼ばれることがある。さまざまなメッセンジャーからもたらされるデータを整理統合した大規模データベースは新たな発見の宝庫であるが、その構築と分析にもコンピュータは不可欠である。さらに、実験室で宇宙の極限環境に近い状態を作りだし、宇宙にしか存在しない分子や固体微粒子を生成しその反応過程や性質を調べる実験宇宙物理学も天文学の重要な研究手段である。
天文学は便宜上、分野に応じてさまざまな名前で呼ばれる学問に分かれている。しかし、何れもそのカバーする範囲が厳密に定義されているわけではなく、あくまで慣例によるものである。日本の教育現場で比較的よく使われているものを参考のために列挙しておく。
[観測波長・手段による分類]
ガンマ線天文学(gamma-ray astronomy)
X線天文学(X-ray astronomy)
紫外線天文学(ultraviolet astronomy)
可視光天文学(optical astronomy)
赤外線天文学(infrared astronomy)
電波天文学(radio astronomy)
ニュートリノ天文学(neutrino astronomy)
重力波天文学(gravitaional wave astronomy)
[観測場所による分類]
地上天文学(ground-based astronomy)
スペース天文学(space astronomy)
[観測対象による分類:注記あり]
太陽物理学(solar physics)
恒星天文学(stellar astronomy)*1
恒星物理学(stellar astrophysics)*2
星間物理学(interstellar matter physics)*3
宇宙化学(astrochemistry)*4
銀河系天文学(Galactic astronomy)*5
銀河天文学(extra-galactic astronomy)*6
銀河考古学(galactic archeology)
ブラックホール天文学(black-hole astronomy)
観測的宇宙論(observational cosmology)
物理学的宇宙論(physical cosmology)
宇宙生物学(astrobiology)
宇宙核物理学(nuclear astrophysics)*7
[その他]
天体力学(celestial mechanics)
位置天文学(astrometry)
天体観測学(astronomical observation)
実験宇宙物理学(experimental astrophysics)
データベース天文学(database astronomy)
時間領域天文学(time domain astronomy)
球面天文学(spherical astronomy)
[注記]
*1 日本では歴史的に、個々の恒星の性質と言うより銀河系天の川銀河)の中の恒星の運動やそれを通した銀河系の構造の研究に対して用いられた。
*2 個々の恒星の構造や進化の研究。
恒星進化論(theory of stellar evolution)、
恒星内部構造論(theory of stellar structure)、
恒星大気構造論(theory of stellar atmosphere)、などに分けることもある。
*3 星間物質の性質やその中で起きる化学反応などの研究。
*4 宇宙で起きるさまざまな化学反応の研究。*3と重なりが多い。
*5 日本では古くは*1でカバーしていた内容。
*6 古くは銀河系外天文学とも呼ばれた。銀河に限らず銀河系外天体をほぼ全て対象に含める。
*7 恒星内部での核融合反応はじめ宇宙で起きる核反応全てを対象。
天文学は、古来から人類の世界観に大きな影響を与えて来たため、現代でも自然科学、工学だけでなく、人文社会分野の多くの学問と関わりを持っている。このため天文学は、科学コミュニケーション・アウトリーチ活動を通じて実社会との関わりが強い学問分野の一つである。国際天文学連合(IAU)は、その「戦略計画2020-2030」で、目標の一つに「学校教育における天文学の利用」を掲げており、2019年に「教育のための支援室」を設置した。その活動に資するため、市民に知っておいて欲しい天文学の基本概念をまとめた'Big Ideas in Astronomy-A Proposed Definition of Astronomy Literacy'(日本語版:ビッグアイデア-天文学の主要概念- 天文学リテラシーの提案)を出版している(以下のURLからダウンロードできる)。
Big Ideas in Astronomy-A Proposed Definition of Astronomy Literacy (英語版)
https://www.iau.org/news/announcements/detail/ann19029/
ビッグアイデア-天文学の主要概念- 天文学リテラシーの提案 (日本語版)
https://tenkyo.net/information/notification/big_ideas2020/

2020年05月23日更新

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